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大阪地方裁判所 昭和35年(わ)4424号 判決

被告人 伊達雅夫 外七三名

主文

被告人坂井奈良芳、同伊達雅夫、同地道行雄は無罪。

(他の被告人の主文は省略)

理由

(罪となるべき事実)(略)

(証拠の標目)(略)

(検察官、弁護人の主張に対する判断)(略)

(法令の適用)(略)

(被告人等の無罪についての判断 第一、一、第二以下)(略)

二、被告人伊達雅夫、同川田勝範、同田中進に対する無罪判断(兇器準備集合)

被告人伊達雅夫、同川田勝範、同田中進等に対する公訴事実の要旨は「同人等はいずれも神戸山口組系安原会会員であるが、昭和三五年八月一〇日午前零時過頃、右山口組組長田岡一雄等が、明友会会員より因縁を付けられ侮蔑的言動を受けたことに端を発し、同組傘下の富士組、中川組、柳川組等各組員とともに右明友会幹部に対する報復のため、同人等を殺傷せんとしてその所在を探索中、同月一一日夜、大阪市南区炭屋町四四番地山水苑旅館において、共同して明友会会員の生命身体に危害を加える目的をもつて、日本刀、拳銃等の兇器を準備してあることを知りながら桂木正夫等と共に集合したものである」というにある。右被告人等は右公訴事実につき、山水苑に集合したことは事実であるが、明友会会員に対する殺傷の意思はなかつたと主張するのでこの点について判断する。

被告人伊達、同川田(35・11・9付)、同田中(35・11・9付)の各検察官調書によれば、同人等はいずれも安原会会員もしくはこれに準ずるものであつて、前記青い城の事件発生後、中川組に対する援助については、佐野晴義、中野正義等在阪安原会幹部の指示に従つて行動していたのであるが、八月一一日夜山水苑に集合したのも、佐野、中野等幹部の指示を受け、これに従つて集合したことが認められる。一方前記のとおり、当時山水苑に集合した安原会としては、中川組に援助はするが、それはあくまでも消極的に明友会会員の居所を探索し、その所在が判り次第中川組等に連絡し、中川組組員の行動を容易ならしめようとする意図にすぎず、結局、自ら本件殺人未遂を実行し、或は中川組等と共同して之を遂行する意思はなかつたのである。したがつて右佐野等の指示を受けこれに従つて行動していた被告人等にも、やはり前記佐野等他の安原会会員と同様、明友会会員を殺傷しようという意思はなく、中川組組員の行動を容易ならしめようとしていたにすぎないものと解するのが相当である。ただ前掲各被告人の検察官調書によれば、前記佐藤等安原会会員同様に中川組と明友組との紛争につき、中川組組員が場合によつては相手方を殺傷するかも知れないということを知つていたのであるから、前記佐野等と同様、殺人未遂についての幇助の意思はあつたものと解するのが相当である。

ところで、刑法第二〇八条ノ二第一項の兇器準備集合罪は「他人ノ生命身体又ハ財産ニ対シ共同シテ危害ヲ加フル目的ヲ以テ集合シタル」者の中、「兇器ヲ準備シ又ハ其準備アルコトヲ知テ集合シタル者」を処罰する趣旨と解すべきであり、右「共同シテ害ヲ加フル目的ヲ以テ集合シタル」場合というのは、単に二人以上の者が日時場所を同じくして集合するだけでなく他人も自分と共通の目的を有していることを認識して集合する必要がありしたがつて共同シテ」というためには、共通の目的を前提とするのであつて、いわばそれは共同正犯において必要とされる加害行為を共同して行うという共通の意思に類似するものを指すと解するのが相当である。そうだとすれば、集合する者に共同して行為をしようとする意思を有しない場合は勿論のこと、集合者の一部が所定の目的を有することを知りながら、自らは之を遂行する意思もなく単に之を幇助するという目的で集合した場合にも、最早、共通の目的があるということはできないと解するのが相当である。ところで、前記のように被告人伊達、同川田同田中等には、桂木正夫等と共同して明友会会員を殺傷しようとしたのではなく、単に桂木正夫等の殺人行為につき、これを幇助をせんとして集合したにすぎないのであるから、兇器準備集合罪にいう共通の目的をもつて集合したということはできないと解するのが相当である。結局、右被告人三名が、桂木正夫等と共通の目的を有していたという点の証明がないし、また本件全証拠を検討するも右目的を有していたと認定しうるに足る証拠は見当らないから、犯罪の証明がなかつたことになり、刑事訴訟法第三三六条により、右被告人三名について無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(別紙一覧表全部省略)

(裁判官 田中勇雄 田畑豊 野曽原秀尚)

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